【時価総額100億円】グロース市場の上場維持基準が厳格化?IPOへの影響は?

 4月3日の日本経済新聞で「東京証券取引所がグロース市場の上場維持基準を厳格化する方針」との報道がありました。現行の「上場10年後の時価総額が40億円以上」から「上場5年後の時価総額が100億円以上」と、期間が短くなりも時価総額も引き上げられる予定です。

 報道によると、4月1日の終値で見ると、グロース市場で時価総額が100億円未満の企業は約420社と全体の7割が該当するそうです。この数字をみるだけでも影響範囲はかなり広くなりそうですね。
 また、グロース市場は新興企業が数多く上場する市場であり、IPOもかなり影響を受けるでしょう。この記事では、新しい上場維持基準がどのようなものなのか、今後どのような影響があるのかなどわかりやすく解説しています。

新基準はいつから?どう変わる?

 冒頭でも触れましたが、現在は「上場10年後の時価総額が40億円以上」が上場維持の基準です。それが新基準では「上場5年後の時価総額が100億円以上」となる予定です。

判定時期 必要時価総額
現行(変更前) 上場後10年 40億円以上
2030年以降(予定) 上場後5年 100億円以上

 新基準は5年後の2030年からはじまるため、今すぐに影響が出る訳ではありません。2030年以降、上場5年を経過した企業に適用されます。

 かなりきびしく見えますが、市場の健全化という観点では必要な処置とも考えられます。現行の基準では、時価総額は小さいまま上場する「小粒上場」が問題となっています。上場はしたもののその後の資金調達が難しく、投資対象として見られなくなり成長が鈍化する悪循環におちいります。このように小規模のまま上場し企業価値が伸び悩んでいる企業を減らす狙いがあるようです。

IPOへの影響は?

 次の表は、現在の各市場への上場審査基準です。上場を承認してもらうために必要な基準です。

プライム市場 スタンダード市場 グロース市場
株主数 800人以上 400人以上 150人以上
流通株式数 2万単位以上 2,000単位以上 1,000単位以上
流通株式
時価総額
100億円以上 10億円以上 5億円以上
流通株式
比率
35%以上 25%以上 25%以上
時価総額 250億円以上 規定なし 規定なし

 このように、グロース市場は上場審査基準がゆるく、多くの新興企業がグロース市場へ上場しています。今回の変更は上場維持基準の変更なので、直接上場審査基準には関係ありませんが、5年後の上場維持が難しいのであれば、上場を見送る企業が増える可能性があります。
 例えば時価総額10億円の企業が上場した場合、5年で時価総額を10倍にしないと上場廃止になってしまいます。これはハイペースで成長と増資を繰り返さないとむずかしいでしょう。

 IPOの件数が減る可能性が高いですが、その場合は上場ゴールのような案件から減っていくため、全体の質は上がりそうです。
 「5年後に時価総額100億円以上が達成できる見込みがある」ということは、すでにある程度の規模で安定して成長している企業や、今後大幅な成長が見込める企業である、とも言えます。

 また、今回の上場維持基準の変更は東証グロース市場に関してなので、まだ上場維持基準のゆるい地方市場(名証、札証、福証)への上場に切り替える企業も増えそうです。上場数が増え、地方市場の取引が活発になれば、IPO全体の底上げにもつながるでしょう。

■名古屋証券取引所の上場維持基準
プレミア市場 メイン市場 ネクスト市場
株主数 800人以上 150人以上 150人以上
時価総額
(緩和基準)
100億円以上
(20億円以上)
5億円以上 2億円以上

 IPOへの影響は大きそうですが、必ずしも悪い影響だけではないでしょう。

過去のIPO案件から見る影響範囲

 では、実際に新基準が適用された場合、どの程度影響があるのか見ていきましょう。

過去IPOにおける想定時価総額

 2020年から2024年に上場した企業を時価総額(初値×上場時発行済み株式数)別に集計しました。

上場年 上場件数合計 時価総額100億円以上 時価総額100億円未満
(うち50億円未満)
100億円未満の比率
(50億円未満の比率)
2024年 86社 42社 44社
(26社)
62.8%
(30.2%)
2023年 96社 55社 41社
(21社)
42.7%
(21.9%)
2022年 91社 38社 53社
(22社)
58.2%
(24.2%)
2021年 125社 72社 53社
(11社)
42.4%
(8.8%)
2020年 93社 59社 34社
(9社)
36.6%
(9.7%)
合計 491社 266社 225社
(90社)
45.8%
(18.3%)

 表のように、約半数の企業が時価総額100億円未満です。さらに約2割の企業は時価総額を倍以上にしないと上場維持できません。2024年は初値が伸び悩んだこともあり、基準未達の割合が増加しています。
 この表はグロース市場以外の市場への上場も含んでいるため、実際の未達割合はもっと増えます。

 続いて2020年に上場した企業は、約5年が経過した今現在どうなっているのか調べました。

2020年上場企業の時価総額比較

 2020年に上場した93社の現在の時価総額を「100億円以上」、「100億円未満50億円以上」、「50億円未満」で集計しました。

  時価総額100億円以上 時価総額100億円未満
(うち50億円未満)
上場廃止
2020年上場時 59社 34社
(9社)
-
2025年4月時点 27社 59社
(34社)
7社

 上場直後よりも上場維持基準を満たしていない企業数が増えてしまっています。参考までに、上場時の時価総額が100億円未満の企業34社の中で、2025年4月時点に時価総額100億円以上となった企業は6社でした。
 成長もむずかしいですが、企業価値を維持し続けるのもむずかしいのが分かりますね。

 冒頭でも触れたように、2025年4月時点で、グロース市場に上場済みかつ時価総額が100億円未満の企業は約420社となっており、全体の7割が該当しています。2020年に上場した企業も上場廃止を除くとだいたい同じ割合ですね。どれくらい影響があるのか分かっていただけたでしょうか?

まとめ

 グロース市場の上場維持基準の厳格化は、かなり広範囲に影響を及ぼす事が分かりました。市場健全化には必要な措置かもしれませんが、IPOへの影響も大きく、今後の上場件数減少にも繋がりそうです。
 まだ確定ではありませんが、グロース市場の小粒上場は以前から問題視されていたため、何らかの対策が取られるのは間違いないでしょう。

 ただし、上場ゴールや小粒上場が減るのであれば、有望なIPOの割合が高まっていきます。その点はプラスとして受け止めたいですね。今後詳細が決まっていきますが、決まり次第、追加報告します!

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